鑑賞ノート『都市を耕す~ Edible City~』
8月21日と22日の2日間、オンライン・オフラインを含め、約20名の方と一緒に映画を鑑賞しました。
“私たちは食べるために生きている!他は全て後付け。人間は元々幸せな生き物なのよ!”
映画の中で、そんな風に語っていた、活動家の女性がいた。
本当に、そうなのかもしれない。
人間と社会の本質的な在り方を見直すキッカケを与えてくれる映画でした。
作品は英語音声で日本語字幕、テンポもかなり速かったため、このテーマに慣れない方からは、「難しかった!!」というコメントもありました。ブログでは、当日見られなかった方のために、映画の内容について、おさらいしてみたいと思います
Point1. 戦争で使われていた技術が農業に転用された
・火薬⇒肥料
・化学兵器⇒農薬
・戦車⇒トラクター
1990年から22年間で、54%の石油を使った。
農業生産にも多くの石油が直接的・間接的に利用されており、
私たちは“石油を食べている”とも言える。
そうして、単一栽培(モノカルチャー)による大量生産が可能になった
一方で、環境破壊が進み、農家は大企業に依存するようになった
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現代の農業の不自然なあり方、そして、それが持続可能でない点が明らかに分かる。
大量生産のために石油を利用し、地下水を汲み上げ、生態系を破壊している現実。
Point2. 食の現実を見えなくするシステム
「動物を食べるために屠殺するときは、とても辛いし悲しい」
「肉は食べたいが、素性は知りたくない。それは今の社会を象徴する一言。」
「目の前の不正を見逃すのと同じ」「これが見たくないならベジタリアンになるべき」
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ウサギを屠殺する場面。ウサギを抱きしめ、落ち着かせる。
木に吊るし、脈を断ち、皮を剥いで、肉を取り出す場面が映される。
確かに、こうした無慈悲で残酷な部分に向き合わずして、肉を食べるというのは都合の良い話なのかもしれない。
「今は目の前の問題をないものにして、地球をますます駄目にしている」
「都市で生活している人たちに、食べ物が作られている様子を見せたい」
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屠殺に限らず、先進国の都市で暮らす人々は、問題を見なくて済むようになっている。
自然の残酷さ、児童労働、途上国からの搾取、環境破壊・・・
現実を見ないことで、得られる“幸せ”とは、何て虚しい物なのだろうと考えさせられる。
Point3. 食と健康
「大恐慌の時に曽祖父が農業をやっていたから生き残れた」
「生き残るには自然が必要なんだ」
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こうした経験がある人たちがいる。その人たちは食の重要性を理解できる。
私たちは、どうだろうか?
歴史から学んでいるだろうか?祖父母から話を聞いているだろうか?
「ここは慢性疾患の巣窟」「食べ物の選択肢を増やせば、健康問題も解決できる」
「ヒスパニック系の住人の多くは有機野菜を求めている」
「農家出身の人が多く、農薬が有害だと知っている」
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アメリカは国土も広く、貧富の格差も激しい。
地域に新鮮な食材がそろうスーパーがないこともある。
特に移民が多く、貧しく治安も悪い地域では、まともなスーパーはない。
食料品店よりも、酒屋の方が多い。そんな、食の差別が存在する。
手に入るものは、ポテチや保存食、ハンバーガーなどのジャンクフードばかり。
こうした問題は、日本においても起こりうる。
その原因は過疎化によるスーパーの撤退かも知れないし、
世界的な食料供給減による輸入の停滞かも知れない。
Point4. オーガニック
「メキシコで習った農業はすべてオーガニックだった。」
「彼らは有機農家でも認証を取っていない。お金が掛かるから。輸出に興味がないから」
「今の農家は自然と共生する方法を知らなっていない。自然と戦う農業をしている」
「しかし、自然科学の知識は以前よりも深くなっている」
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空前の“オーガニックブーム”、アメリカでは市場規模が急拡大している。
一方で、オーガニックの認証を受けるためには、結構なコストが掛かる。
この現象は日本でも同じだ。
当日、上映会に参加された農家の中原さんも「有機認証を取るために年間10万円以上のコストが掛かる。それを考えると、有機の表示をせずに売ることにしている」と話してくれた。本当に良いものに、無駄にコストが掛かる不自然な仕組み…質を担保する仕組みとしての「認証」の限界を示す事例だと言える。認証が難しいのであれば、信頼はどうだろう?そんなことを考えた。
Point5. 食と地域経済
「食品産業の工業化は、地域経済を破壊している」
「自給自足。食べ物を経済のシステムから外してしまえばいい。」
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食べものを、商品としてしまうことで、発生している問題は沢山ある。
認証によって無駄なコストが発生することもそうだし、形や色を揃えて、流通に載せるために多大な食品ロスが発生している。そうしたコストは全て生産者に転嫁されている。
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誰もが自分たちが生きるのに必要な食べ物を自給できれば…
やりがいのある仕事が生まれ、ブルシット・ジョブ(社会的価値の低い金のためだけの仕事)が減り、それぞれの地域で自然と共生する。
きっとベーシックインカム以上に、人々の生き方や働き方、社会全体に影響があるだろう。
Point6. 食と教育
「灌漑システム、景観設計、こうしたことを学ぶことができる都市農園の教育プログラム」
「食は学校で教えるべき科目」「食品表示を学んだことが変化のキッカケだった」
「みんな食べる」「食がもたらす影響は大きい」「ほら、健康な国のできあがり!」
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都市を耕す取り組みを始めた地域では、それらを教育に結び付ける取り組みも始まった。
食に関する正しい知識を身に付け、それを実践する場所がある。
それらが、仕事になり、個人が健康になり、やがて社会全体が健全になる。
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食を見直すことで、肥満などの生活習慣病に掛かるコストも削減できる。
そんな変化を生むことができるのが「食システム」の転換だ。
Point7. 世界を変えるために必要なこと
「持続可能な小さな島の出来事にすぎない」
「良い農家になるだけでは不十分だ」
「食の民主化のために、私たちは提起者でなければならない」
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今、私たちの周りでも様々な活動が起こっています。
でも、それらは関心のある一部の人たちの間でのこと。
映画の中では
「都市を耕す活動を始めて7年経ったが、この取り組みでは地域のニーズの1%も満たしていない」
という現実に向き合っていた。
「運動には言葉が欠かせない」「言葉が新しい世界観を作りだす」
「異なる世界をつくるには、異なる考え方が必要です」「意見を交換し考えを結び付けないと」
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いずれ大きな変化を生むためには、政治や行政の力が必要になる。
しかし、始まりは草の根運動。これがなければ何も生まれない。
それが本当に良いもので、多くの人との対話を続ければ、言葉で未来を共有できれば、
もしかしたら、今では想像もできない景色が見えるのかもしれない。
“人間は幸せな生き物なのよ!”
そんな風に、誰もが自然と思えるような社会をつくりたい。
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